「知識ゼロでも分かる」が基本スタンス
黒瀬代表の「分かりやすい説明」は非常に評価が高い――そのルーツをお聞かせください。
「世の中には難しいことが多すぎる!」。どんな分野においても、さまざまなセミナーや本、レクチャー動画がありますが、言い回しが分かりにくいと全然入ってこない。すごく大事なことなのは分かるけど、何を言ってるのかが全く分からない。もったいないですよね。ITの話となると、なおさらです。専門用語は多いし、説明も複雑。それだけで苦手意識をもってしまう。単純に、もっと分かりやすく伝えたい、予備知識がなくても気軽に知ってもらいたいという思いをずっと持っていました。
専門用語が分からないとすぐに心が折れます…
そうですよね、ITやウェブのお客さんは、専門外の方たちばかりです。たとえばこれが冷蔵庫を販売する会社だったら、お客さんは冷蔵庫を使ったことがありますよね。つまり基礎知識がある。だけど、僕のお客さんはIT業界ではなく一般企業の方々です。専門知識はなくて当然ですし、専門用語も知らなくて当然。だから説明する際には「専門用語を使わない」というのが大前提です。
僕自身、ITに関しては誰かから教わったわけではなく、自分で調べて、体験して、失敗して、学んでを繰り返し、専門家としての今があります。その経験、蓄積があるからこそ、聞き手に合わせて表現を分かりやすく言い換えたり、より適切な表現を選んだりと、専門用語に頼らず自分の言葉で話せるんじゃないかと思います。
聞き手目線の「やさしさ」と「納得感」
分かりやすく伝えるために意識していることは何ですか?
まず、相手の立場に立って話すということが一番。専門家になればなるほど、専門的な言葉で話してしまいがちですよね。ウェブやマーケティングのように専門用語が多い業界だと特に。でも、相手はこの分野に関しては専門外、知らないのが前提。知らない人に伝えるには、どういう言葉で伝えるのが一番分かりやすいかなと、言葉選びから始めます。もちろん専門用語は使わずに。その上で、同じ「A」というものを伝えるにしても、ただ「Aです」と伝えるのではなく、「こう、こう、こうのAです」と伝え方を組み立てます。この言い方よりこっちの言い方の方が分かりやすいだろうな、資料を作るならこれを入れた方が分かりやすいだろうな、こういう順番で話す方が分かりやすいだろうなと、聞く側の気持ちを常に意識しています。
たとえば、僕は今、子育ての真っ最中なんですが、それこそ子どもに専門用語は使えないじゃないですか。しかも、3歳の子どもが知っている単語は限定される。イチゴとメロンとバナナは分かるんです。だったら、イチゴとメロンとバナナという分かる言葉を使って、できる限りの説明をしないといけない。
結局、分かりやすさは「話し上手」ということではありません。相手をどれだけ理解して、相手のために自分のもつ最大限の言葉で支えられるかということなので、相手がすごく大事なんです。
伝える技術だけでなく、気持ちの部分も大きいということですね。
そうですね。以前に受講者の方から、「黒瀬さんのセミナーは “やさしさ”ですね」と言われたことがあります。どういうことなのかなと思って聞いてみると、「初心者に分かりやすいようにちゃんと組み立てられている」「相手に届けるための工夫がちゃんとされている」と。そういった意味で、その方は“分かりやすい”ではなく、“やさしい”という言葉で表現されたようです。ジャンルは違いますが、その方ご自身もプロのセミナー講師の方だったので、そんなふうに言っていただいたのはすごくうれしかったです。
黒瀬さんの講演はCSS Niteでベストセッション、岡山ウェブクリエーターズではグランプリに選ばれましたね。受賞の決め手は何でしょう?
「話の分かりやすさ」と、その上での「腑に落ち感」だと主催者の方に言っていただきました。やっぱり、話を聞いて、納得できるかどうかということがすごく大事なんですよね。
「理解を深める」コミュニケーション
ソフトな外見か、ナチュラルな接し方からか、いい意味で先生ぽくないですね。
確かに、ぽくない!「ザ・先生」みたいな感じでもないし。
僕、誰とでも“3秒で打ち解けられる”という得意技があって。初対面の人でもいきなり昔からの友だちくらいの感覚で話せちゃうんです。仕事ではセミナー講師はもちろん、会社におじゃまして企業研修をする機会も多いんですが、行った先では一方通行で話すんじゃなく、その会社の営業マンの方たちや、社員の皆さんとたくさんコミュニケーションを取るようにしています。そんなときも一気に懐に飛び込むというか、距離を縮めるのは得意だと思います。上も下もないみたいな。
「分かる」ための空気づくりがお上手な気がします。相手を緊張させないというか、何でも質問できそうです。
この眉毛の下がってる感じがそう見えるのかなあ? だけど、営業マン時代もそうですが、こんな感じで話していると相手もだんだんリラックスしてくれるようになるんですよね。それがすごく重要だなって思います。こちらが構えちゃうと、相手も構えちゃうでしょ。常に素を出すというのが大事かなと。だから、僕はなるべくオープンで。
お互いにいろいろ話すことで、「“分かってない”ことが分かった」とか、「本当の意味で理解できた」ということもよくあります。話をしたことで「ああ、実はこういうことだったんだな」と気付くことも。だから、そういった意味でも、相手の話を聞くこと、つまり話してもらうこと、コミュニケーションはすごく大切にしています。
確かに話しかけやすいオーラが出ています。
僕は祖父母と同居する家庭で生まれ育ったんですね。両親も共働きだったからずっと祖父母と一緒だった。近所づきあいも豊かで、祖父母世代の人たちって誰にでも気さくに声をかけてくれますからね。とにかくコミュニケーションの多い環境でした。それが影響しているのかもしれません。これがもし、都会のマンション暮らしからスタートしてたら、また違ったスタイルになっていたかもしれませんね。そういった土台があって、さらに営業マン時代の経験で、より磨かれたのかもしれません。
実行力の高さは、納得度の高さに比例する
黒瀬さんにとって「分かりやすさ」とは?
やっぱり“納得感”だと思います。たとえば、わが家の場合、僕は妻から、子どもへの説明係りをよく任せられるんですが、子どもに「Aだよ」と結論から話しても納得しませんよね。なぜAなのか分からないからです。だから僕は、「こう、こう、こうでしょ? それでこうなったらどう思う?」と言うと、「Aだね」と自分で答えて納得するんです。答えにたどり着くプロセスを省略せずに説明する。子どもが理解できる言葉で。そして自分で出した答えだから、行動に移せるんです。これは子どもに限らず、大人もそうですよね。
「分かれば、実行できる」とういことですね。
その通りです。仕事においては、自分が納得した上で、それをやるという決断ができるかどうかが大事。納得度が高ければ高いほど、自然と行動に移しやすくなるし、主体的に行動できる。だからこそ成果にもつながりやすくなると思います。話を聞いて終わりではないんです。目指すところは「分かりやすくて良かった」と言われることではありません。「分かりやすく伝えられた」ことで、目に見えてその人の行動や、その人の発言が大きく変わった――そのとき本当の意味で「分かりやすく伝えられた」といえるのだと思います。
プロフィール:岡山ウェブコンサルティング(株)代表取締役 黒瀬直樹
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